1. アメリカの展示会 (Trade Show)
広大なアメリカ市場に、販売網を作る為には、効率的な販売形態が必要である。「展示会」(Trade Show)が最も有効である。販売するメーカーも、仕入れる小売店のバイヤーにしても、それぞれの取引先の本社まで行くのでは大変な時間と経費がかかるし、特に新規の取引先を探すには展示会が最も効率が良い。ここでは、日本企業がアメリカの展示会に出展して、ビジネスを前進させるためのポイントを説明する。
(1) 展示会の選択
アメリカ市場開拓の初期段階では大都市で行われる500ブース以上ある規模の大きな展示会に出展し、多くのバイヤーと出会うことが必要である。小規模の展示会は雰囲気は良いものの集客力が小さい場合が多い。大きな展示会では、店舗バイヤーばかりでなくメディアやディストリビューター、レップと出会う機会も多い。
マーケットがある程度形成できた段階で、さらに取引先を増やすには、地方の展示会もよいだろう。地方の展示会では、多くの専門店としっかり商談ができる。ただし、展示会出展には、かなり経費がかかることから、自社製品に最も適した展示会を選ぶことが重要である。年間で3回か4回程度、全米をカバーする出展を検討するとよいだろう。影響力のある展示会には、地域一番店の店舗、メジャーストアのバイヤーが訪れる。多くの小売店バイヤーが展示会に訪れ、商品を探して発注を行う。すでに、かなりの仕入先を持っている小売店であっても、常に展示会にて新しい商品、取引先を探す努力をする。この努力を怠る小売店は、商品が変わらずにマンネリ化してしまい消費者に見放されてしまう。
アメリカの展示会にはその消費力の大きさに魅せられて世界中から多くの海外企業が出展してくる。商品がマーケットにあっている企業のブースには多くのバイヤーが集まっている。展示会準備が完璧でヒット商品がある時は、ランチにも行けないほどの注文がはいる。
アメリカには、商品カテゴリーにおいて、それぞれの展示会があり、ニューヨーク、シカゴ、ロサンジェルス、ラスベガスなど全米の大都市において開催される。展示会を選択する時は次の点がポイントになる。
・ 展示会が、商品にあっていること。それは、出展社のカテゴリー、価格帯、客層を見て判断する。
・ 競合するアメリカ企業がその展示会に出ているかのリサーチ。競争相手が出展しているほう
が適正な展示会になる。
・ 出展する前に、必ずその展示会を視察する。
・ 商品のカテゴリーにおいて、全米最大の展示会を選択する。最大の展示会には多くの有力バイヤーが集まり、商品に適した対象に会える可能性は高くなる。ホーム製品カテゴリーにおいて、有力な展示会は下記の通りである。
・ New York Now (前NYギフト展)www.nyigf.com
毎年1月8月にニューヨークのジャビッツ・コンベンション・センターにて開催される。全米で最大規模の展示会である。ギフトに適したおおよそあらゆるカテゴリーの商品が出展されている。ホーム製品のうち、ギフト関連製品のブースは多い。ギフト以外の製品も多く、出展する権利を確保するのが難しい。ジェトロ主催の日本パビリオンがある。
・ International Home and Housewares Show(IHHS)http://www.housewares.org/
毎年3月にシカゴのマコーミック・コンベンション・センターにて開催される。全米で最大規模のホーム系の展示会である。ホーム製品のあらゆるカテゴリーの商品が出展されている。特に、キッチン関連製品のブースは巨大である。多くの大手チェーン店のバイヤー、海外ビジネス関係者が集まる。ジェトロ主催の日本パビリオンがある。
上記展示会は、いずれも多くの日本企業が出展している有力な展示会である。それら以外にも、アメリカには多くの展示会があるので、視察してみると良いだろう。下記のウェブサイトで製品にふさわしい展示会が探せる。 http://www.tsnn.com/
(2) 展示会の視察
自社の製品にあった展示会を選択できたら、その展示会を一度は視察するべきである。一度も見ないで、出展するというのは展示会準備がどうしても中途半端になる。展示会視察のポイントは次の通り。
・ 展示会に入場するには、通常バッジが必要である。そのバッジは、日本からウェブサイトを通して確保する。会場で確保するには時間がかかるし、当日では取得できないケースもありうる。
・ 会場では、無料の出展者ガイド(Directory)が配布されている。そこには、多くの貴重な情報が掲載されている。出展社のリストなので、競争相手の基本情報が入手できる。
・ あらかじめ同じカテゴリーを扱っている同業者を研究しておく。実際の展示会ブースを見ると、ビジネスのポイントがさらに観察できる。
・ 同業者、同カテゴリーのブースをまわり、「展示会調査メモ」のフォームに、詳細を記入していく。そのフォームには、会社名、ブースのサイズ、ブースデザインの特徴、レイアウト、商品ディスプレイの特徴、主力商品、製品の特徴、価格、カラー構成、製品のデザインの特徴、アイテム数、販売員数、照明の方法、カーペット・パネルの色、デモの有無、その他気がついたことを書いておく。
・ 自社に関係の無いカテゴリーであって、ブースデザインの良い企業、プレゼンテーションの優れたブース、全体の色の傾向、商品の傾向などを研究する。
・ アメリカに展示会視察の折に、小売店調査も行う。将来の顧客になりそうな小売店を視察する。
(3) 展示会の目的
展示会出展の目的は、積極的に「注文を得る」ことである。当たり前のようだが、時折、「今回の出展は注文をとるというよりも、商品の反応を見るための展示会だ」と、位置づける日本企業が時々いる。これは、あまり意味が無い。「うちの商品のありのままの姿をアメリカのバイヤーに見てもらおう。その結果を見て、次の段階にきちんと準備しよう」という姿勢で出展する日本企業は、アメリカに合う商品が揃っていない、価格が円建てやFOBであったり「ビジネスの準備」が整っていないことが多い、こういうブースでは、ビジネスにならないのでバイヤーも真剣に見てくれない。バイヤーは、商品だけを見て注文するわけではなく、会社の流通体制、販売体制、会社の信頼性を見て、商品を仕入れる。さらに、マーケット・リサーチ無し、商品の工夫無し、アメリカ国内卸価格無しで出展しても、バイヤーはブースをすぐに出てしまう。これではマーケット・リサーチにもならない。このような結果になると、日本企業は次回に工夫し再度挑戦するという気にはならないだろう。せっかく良い商品を持っていても、最初の段階で挫折してしまう。
展示会出展は、受注を得てこそ意味がある。バイヤーが真剣に商品に向き合ってくれるからである。最初は多くの注文が入らなかったとしても、ラインの中で「売れる商品」が出てくれば、必ず次の方向が見えてきて、ビジネスは前進していく。商品の問題点も分ってくる。さらに「やる気」も出てきて、「次はもっと良い商品を提案して、もっとバイヤーを集めよう」と前進していくのである。
出展するからには、あらかじめマーケット・リサーチをきちんと行い、準備をしっかり行なってから、「注文を得る」姿勢で臨むべきである。
(4) スムーズな商談
展示会ブースでは、多くの商品に囲まれているので商品説明はしやすい。良いイメージも出せる。しかし、「資料」をめくりながら説明するのではモタモタして商談のテンポが遅くなり、多くのブースを廻るバイヤーにとってはマイナスである。日本の展示会では、問屋や小売店など様々な取引先が来るため、商品価格を商品につけておかない企業も多い。アメリカの展示会は店舗バイヤーが大部分の為、商品情報はできるだけ商品にラベルでつけておいて、テンポ良く、スピーディーに説明ができるようにしておく。商談のストーリーは展示会前にしっかり決めておいて、スムーズな受注活動を行なう。
ブースが立て込んで、バイヤーを待たせることになっても、それはまったく心配要らない。アメリカのバイヤーは並んで待つことにはあまり抵抗はないのであわてずにじっくり商談をする方が良い。急ぐバイヤーには、「今は時間が取れないので、* 時PMにアポを入れませんか?」と、アポイントを促すとよいだろう。
2. 展示会の準備
展示会の「準備の内容」と「展示会の成果」は比例するものである。出来るだけ緻密な準備を行う。
(1) マーケット・リサーチを行う
先に説明したとおりマーケット・リサーチがアメリカマーケット進出の成否を握っている。徹底したマーケット・リサーチを行えば、事前にアメリカ市場の実体に近づくことができるので、展示会準備の内容も的確になる。マーケット・リサーチの時間と予算はしっかり取るべきである。中途半端な調査はやらないのと同じである。
(2) 商品の準備
① アメリカにあった商品
アメリカのライフ・スタイルと感覚に合う商品が売れる。マーケット・リサーチに基づいて工夫したデザイン、色、サイズ、価格などのアメリカ市場にあった改良が受注に結びつく。とりあえず、色々出してバイヤーの反応を見ようというのでは、逆にバイヤーがブースに入ってこない。マーケット・リサーチに基づいて商品を絞らないと「分かりにくいブース」になるのである。
② アメリカ国内卸価格の設定
アメリカ国内での小売店への卸価格(US Landed Price)の算出も重要である。アメリカの展示会で、小売店に向けて「FOB Japan価格」を提案しても、「店舗にいくらで入ってくるか分からない」ため、受注は不可能である。
③ パッケージの工夫
初回出展の場合は、アメリカ市場にあったパッケージやラベルまで準備するのは難しいが、日本のパッケージは出さださない方が良いだろう。製品のサンプルは、アメリカ市場に卸す実際の製品サンプルでないとならない。「アメリカ市場向けの製品は、このサンプルをこう変える」というようなことでは受注は困難である。パッケージデザインはあわてて行うのではなく、アメリカのテイストをしっかり理解して、ブランド戦略に基づいて取り組む方がいい。
(3) 販売組織体制
アメリカ国内に販売組織体制を作ることが、アメリカの「ビジネスの土台」となる。非常に重要な課題である。アメリカマーケットで商品の販売、流通業務、回収業務をしてくれる「エージェント」または「現地法人設立」が前もって準備できれば完璧である。しかし、実際は展示会出展までにそれを準備するのは難しい。「エージェント」を探すにしても、日本からでは簡単にはできないが、展示会を通して探すことはできる。商品の市場性が高ければ、「うちに扱わせて欲しい」と、先方から声をかけてくることがあるし、前もって案内状を出しておき、ブースで商品を見せて交渉するのである。「アメリカ市場に相応しい商品」であれば、エージェント、ディストリビューター候補の企業が手を挙げてくる。彼らは、新しい商品を常に探している。
(4) カスタマー・リスト作成
営業の準備過程に最初に行うことは、「見込み客リスト」(Potential Customer List)を作ることである。販売の対象を研究して展示会前から営業を行う。展示会の案内状を出せば、すぐに多くのバイヤーが集まるとは考えにくいが、海外市場が初めてであれば、できるだけ色々な営業展開を行い、海外市場に慣れていくことも大切なことである。バイヤーから問い合わせが来て、対応していくだけでも見えてくるものは多い。
(5) 出展の申し込み
展示会主催者(Show Company)にEメールを出して、出展に関心のあることを伝え、疑問点の問い合わせをする。そして、納得できたら出展申込書(Application Form)を出す。多くは、オンラインで可能である。出展費用は、クレジットカードで支払うことができる。会場内のブースの位置もできるだけ良い位置を確保するよう交渉する。新規出展者の希望がそのまま実現することは難しいかもしれないが、希望は率直に伝えた方がよい。回を重ねていくと、徐々に希望に近いロケーションになることは充分考えられる。展示会主催者とコミュニケーションを図る為に、展示会の前ばかりではなく、展示会中、展示会後にも、成果を報告して、「次回は・・・してほしい」という要望を伝えるのも賢い方法である。展示会主催企業とは、ビジネスがうまく展開していけば、長い付き合いになるので、充分コミュニケーションをとっておくことは有益である。
ブースのロケーションは、「会場の前の方が有利だ」という声もあるが、ポイントは、同じ製品のカテゴリーが集まっているロケーションに入ることである。販売対象に適したバイヤーが集まるからである。
申し込みを行えば誰でも出展できる展示会もあるが、展示会によっては、審査がある場合もある。それは、「製品が展示会にあうかどうか」を審査する為であり、企業の規模はほとんど関係が無い。審査をする展示会の場合には、その展示会を良く研究し、カタログやラインシートなどふさわしい資料を送ると良いだろう。審査の厳しい展示会ほど出展者の粒がそろっており、レベルが高いので、良いバイヤーも集まる。つまり「有力な展示会」ということができる。
(6) ブースのデザイン
① バイヤーを引き付けるブース
ブースのデザインは、バイヤーをひきつける重要な要素である。必要以上に豪華なブースにする必要はないが、センスが良く、デザインを良いものにすると、ハイエンド店や大手チェーン店バイヤーが訪れる可能性は高まる。商品がいかに優れていても、通路からは良く見えずに、バイヤーが素通りしては意味がない。インパクトのあるブース・デザインで、バイヤーをひきつけることは展示会において重要な要素である。
多くの展示会主催者は、簡単なブース・パッケージを備えている。これに含まれるのは、ブースパネル、カーペット、ライト、テーブルとイス、ごみ箱程度である。このパッケージは経済的ではあるがブースとしてはまったく魅力はない。それでは、バイヤーをひきつけることはできないし、製品の魅力まで損なわれる。費用を大きくかけなくとも、センスの感じられるブースを作ることが必要である。
② ブース設営会社 (Booth Builder)
ブースに費用がかけられるのであれば、ブース設営業者を探し、図面を用意していくつかの会社から見積もりを取ってみる。たいていのデザインは作れるので、カスタム・ブースのデザインは早くから検討しておく。展示会、1ヶ月前までに発注を済ませれば間に合うだろう。ブースのしっかりしたものを買取で作り、設営業者に次回の展示会まで保管しておいてもらうこともできる。そうすると、回を重ねていけば、経済的なカスタム・ブースということになる。カスタムブースを作るには、「買取」と「レンタル」があるということは覚えておいたほうがいい。
(7) ブースのサイズ
アメリカのブースは通常10フィートx10フィート(約3mx3m)が1小間である。「テンバイテン」と呼ぶ。しかし、3mx3m(10‘x10’)のブースは、狭く感じられ、いかにも小規模の企業という感じがするので、できれば、3mx4.5m(10‘x15’)、ゆとりができて見栄えはグンと良くなる。回を重ねていき、顧客も増えてきた時には、3mx6m(20’x20‘)あるいはそれ以上あったほうが、「有力なライン」というイメージが出せる。
(8) ディスプレイ
バイヤーの目をひくおしゃれなディスプレイも効果的である。インパクトがあるブースで、センスの良いディスプレイをすれば多くのバイヤーを引き付け、活気のあるブースになる。ブースが人で賑わってくると人々に注目され、より一層人が集まってくる。有力バイヤーは、人気のあるブースは絶対に見逃さない。日本には、優秀なデコレーターが多いので、彼らのアイデアを海外の展示会に活用すると人目を引くディスプレイができるだろう。
日本の展示会では、多くのブースで文字の書かれたポスターや断面図など使った説明ポスターが良く見受けられるが、アメリカではまったく逆効果。文字はできるだけ少なくして、「イメージ」「感覚」で勝負した方が良い。ましてや、旗を立てたり、はっぴを着て、ことさら「日本」を強調するのも、「時代遅れ」で全く逆効果である。
(9) 販売スタッフ
① 販売スタッフの人数と洋服
商品の説明をきちんと行うことができる販売スタッフは受注活動の大きな力になる。一コマのブースではスタッフは2人、2コマで3名で充分で、それ以上は多すぎる。商品をブロックし、威圧感があってバイヤーが入りにくくなってしまう。空間があると、バイヤーは入りやすい。ブースは明るく応対できる雰囲気が大切だ。展示会の種類にもよるが、アメリカではダーク・スーツ、ネクタイというカッコの販売スタッフはあまりいない。ある程度カジュアルのほうが良いだろう。アメリカ企業のブースではジーンズの販売スタッフも多い。
② アメリカ人スタッフ
アメリカ人の販売スタッフを準備することは非常に効果的である。ブースにアメリカ人がいると、バイヤーは入りやすくなり、説明のポイントも伝わりやすい。「和」の要素を持った商品では、むしろアメリカ人のほうがバイヤーの疑問を理解して説明するのでポイントが伝わる。アメリカ人の販売スタッフを確保するには、ブース・スタッフ派遣エージェントに、前もって依頼すれば手配は可能である。商品のイメージにあったスタッフをオーディションをして選ぶと良いだろう。アメリカ人スタッフには、展示会前日に2-3時間をとって商品説明、受注方法の説明を詳しく行うようにする。女性販売スタッフの方がバイヤーは入りやすいと言われている。
③ 展示会前のロールプレイ
出展前日には、日本人スタッフであれ、アメリカ人スタッフであれ、商談の「ロールプレイ」を行うとさらに良い。スタッフの誰かがバイヤーを演じ、「このラインに興味があるので、説明してください」と、商談の練習を行うのである。これを数度繰り返すと、アメリカ人スタッフにしても、製品の特徴を覚えることができ、「本番」には、メモを見なくてもすらすら説明できるようになる。非常に効果的である。
(10) 展示会場への搬入
サンプルをアメリカの展示会会場に、郵便、運送会社を利用して送ると、荷物は到着せず、無くなってしまう危険性がある。サンプル搬入は細心の注意が必要である。会場には、手持ちで運び込むか、主催者指定のブース設営会社に送るか、現地エージェントに前もって送っておく方法が安全である。宿泊先のホテルに送るという手もある。展示会開催に絶対に必要なものは、いくつかに分けてリスクを分散することも必要である。アメリカの運送会社は100%安全な配送は期待できない。手持ちで大量に持ってくると、税関で引っかかり、商業通関にまわされて展示会に間に合わないということもある。
通常、展示会前日が搬入日(Move Inムーブイン)である。トラックであれば、会場の裏の荷受口(Dockドック)から、搬入される荷物が運び込まれる。ニューヨークのジャビッツ・コンベンション・センターでは、ユニオン(組合)の人々が箱に入った荷物をブースまで運び込むことになっている。アメリカの会場内の作業に関しては、ユニオンの厳しい規則があるので注意が必要だ。手荷物程度は自分で運んでもかまわない。
(11) ブース設営
アメリカでは、ユニオン加盟の作業員しか大工作業や電気配線作業をしてはならないという会場が多い。勝手にやっていると、ユニオンのスタッフがクレームをしてくるので注意する。棚をつけたり、照明器具をつけたりする場合は、主催者指定のブース設営企業に所定のフォームで前もって申し込んでおく。道具を使わない簡単な組み立てなどは自分たちでやっても構わない。
3. 展示会スタート
(1) バイヤーへの対応
① バイヤーは急いでいる
バイヤーは、既存の取引先との商談、新しい取引先の獲得に数百のブースを見て回る。NY の展示会の場合、主に東海岸の小売店は日帰りで仕入れの仕事を終わらすか、何回かNYへ足を運ぶ。地方の小売店は、NYのホテルに1-2泊宿泊して、展示会を回る。展示会だけではなく、マンハッタンのショールームも回る。NYの滞在費は高く、バイヤーたちはゆったりとした時間を持っていないのが普通で、特に展示会は迅速に回りたいのである。
バイヤーへの対応は、テンポが必要である。バイヤーの質問は限られているので、全て用意しておかなくてはならない。製品の価格が聞かれることは当然なので、すぐに応えられるよう、製品にシールを貼り、基本的な製品情報を書いておくことも必要。いちいち資料を見ながら答えるというのでは急いでいるバイヤーのテンポにあわない。
大手チェーン店のバイヤーは通常複数で動いている。できるだけ、座ってもらい、ゆっくり商談を行い、コミュニケーションを深めると良い。1コマブースでは商談テーブルを置くには狭すぎる。
② 「リアクションメモ」を活用
バイヤーの反応は色々である。商品を見るだけのバイヤー、すぐに注文するバイヤー、質問の多いバイヤー、Noteをとるバイヤー。資料を渡したり、商談をしたバイヤーには名刺をもらい、「リアクション・メモ」にとめて会話の内容を書いておくと後日の営業フォローに大いに役に立つ。バイヤーに質問することも大切で、「どんな店ですか?」「どういうお客が多いのですか?」などお店の内容まで踏み込んでいく。リアクションメモに全ての情報、反応を記入することによって、後日分析すると、「アメリカにあう商品」が分かってくる。きめの細かい情報収集と、記録が大切である。展示会では、通常50-100程度のリアクションメモが集まる。
③ 注文
「注文します」というバイヤーに対しては、注文書(PO)に注文内容を書き、サインをもらう。そして、支払い条件を話し合って決定する。クレジット・カードで決済する場合は、その場でクレジット・カード情報を所定のフォーム(Payment Agreement)に記入しておくと、後の流通、回収の流れが非常にスムースになる。
(2) バイヤーからの質問
バイヤーからの質問の種類はさほど多くはなく限られている。おおよそ、下記の12の質問が一番多いので、「模範解答」をスタッフ全員で確認しておくと良いだろう。
この商品はいくらですか?
(答) 「アメリカの国内卸価格」をUSドルで答える。(FOBではない)
ラインシートはありますか?
(答) 「名刺をください」 店舗バイヤーを確認してラインシートを差し上げる。
その価格は、アメリカの国内価格(Landed Price)ですか?
(答) はい、この価格はアメリカのLanded Priceですので心配は要りません。
ミニマム・オーダーはいくらですか?
(答) 「はい、300ドルがミニマムです」(取引開始可能の最低注文金額を答える)
この商品の色違いはありますか?
(答) 「はい、他にピンクとグレイがあります」
この商品のサイズ違いはありますか?
(答) 「いいえ、サイズはこれだけです」
これらの商品の納期はいつですか?
(答) 「はい、5月30日ファイブサーティです」
展示会の後でショールームで見られますか?
(答) 「いいえ、まだアメリカ国内にエージェントが決まっていないので、決まりましたら連絡します」
展示会後FAXで注文はできますか?
(答) 「締め切りは、5月30日ですので、それまでにFAXかEメールで注文書を送ってください」
一番売れている商品はどれですか?
(答) 「お勧めしたいのはこれらの5点のデザインです」
私の店のエリアにはすでにどこかに入っていますか?
(答) 「いいえ、まだあなたの地域には入れていません」
最終日に戻ってきますので、このブースのブース番号はいくつですか?
(答) 「はい、ブース番号は#1234 ですので、この名刺に書いてありますので、ぜひまた来てください」
(3) 受注時の注意
① PO(ピーオー)
注文を受ける時には、注文書(PO)に記入していく。POには、注文内容のほか、支払方法、納品時期を必ず書く。小売店が、納期を希望する場合もあるので、それを受けるかどうかも決めておく。2-3ヶ月に分けて納品を希望する場合もある。
② キャンセル・デイト
先方が専用POを持っている場合もあり、キャンセル・デイト(この日を過ぎたら自動的にキャンセル Cancellation date)を書く場合がある。POには必ずサインしてもらう。このサインの意味は、契約遵守の証ということもあるが、展示会において、「注文をした受注」と、「Noteをとっただけの受注」とを区別する意味でもバイヤーにとっても必要なのである。
③ ディスカウント
ブースで、ディスカウントを求める専門店バイヤーは多くない。その他、質問、依頼があった場合も、全てPOやリアクション・メモに記入しておく。大手チェーン店はその場では価格交渉はしない。
④ Noteのバイヤー
その場で注文をしないNoteのバイヤーに対しては、「受注の締め切り」を伝えて、「何月何日までにこのFAX番号に注文してください」と明記しておいた方がいい。締切日は、あまり遅いよりも早めにしておいた方がより良い。展示会後、1週間か、10日くらいが良いであろう。遅くに設定すると、商品の記憶が薄らいでしまうかもしれない
(4) 来場者
展示会は小売店バイヤーだけではなく、様々な人々と出会う機会でもある。貴重なビジネスチャンスを逃さないようにしたい。ブースに来る主な入場者は次の通り。
① 専門店のバイヤー
バイヤーの多くは専門店バイヤーで、通常その場で注文する。商品の意見も言ってくれるので、「リアクション・メモ」を作成し、バイヤーの反応を全て記入しておく。
② 大手チェーン店のバイヤー
チェーン店バイヤーが来る可能性はあるがその場では注文しない。展示会後にアポをとりショールームまたはバイヤーオフィスでミーティングになる。名刺を確保して、今後の営業に備えたい。特にEメール・アドレスは重要である。「記念写真を一緒にとりましょう」といって写真をとっておくと、後に営業しやすいし、名前と顔を覚えることができる。次のステップを決めておく。
③ デパートのバイヤー
バイヤー、バイヤー・アシスタントが情報収集に来る可能性はある。名刺を確保して、今後の営業に備える。Eメールアドレスを必ず確保し、展示会後にアポをとるようにもっていく。
④ オンライン・ストアのバイヤー
オンライン・ビジネス(E Commerce)はアメリカでは非常に多い。注文数量がまとまる場合もあるし、小さな注文でもコンスタントに売れていけば大きな売上げが期待できる。展示会後にサンプルと価格表(Price List)を送り商談を進める高画質の写真データと商品情報データをあらかじめ準備しておくと、よりスムースに話は進む。
⑤ 海外からのバイヤー
NYNOW展,シカゴIHHS展には、カナダ、ヨーロッパ、南米、中東、アジア、日本からのバイヤーも多い。主に、チェーン店かディストリビューターである。その場では注文しないバイヤーが多い。後日Eメールで商談する。アメリカで注文しても、流通は日本から直送ということになるので、FOB価格を提案する。数量がまとまることも多いので、貴重な販売ルートになる。
⑥ メディアのレポーター
日本と同じように、アメリカでもメディアの影響力は大きいので、できるだけ商品を取り上げてもらうように、展示会に「プレス・キット」(Press Kit)を整えておくと良い。サンプルを貸与して写真撮影を行い返却してくるという流れになる。
⑦ レップ
セールス・レップが、「貴社の商品をうちで扱いたい」と言って来る場合がある。彼らは、ビジネスになる商品を見抜く力は鋭く、それは大変良い「市場性のサイン」でもある。すぐに取り組まないとしても、レップの販売先、取り扱いブランド、ショールームの有無などを聞いておく。レップは、受注業務だけを行うので、商品の在庫保管、流通体制がアメリカ国内に整っていなければならない。
⑧ ディストリビューター
ディストリビューターは、日本で言う「問屋」であるが、「貴社の商品をうちで扱いたい」と言って来る場合がある。「独占で扱いたい」という条件もありうる。ポイントは「卸価格」である。彼らが小売店に卸すので、最低でも30%の利益率が無ければ成り立たないであろうし、それ以上を要求されることもある。また、商品ライン全体を取り扱うのではなく、「一番売れそうなものだけ」を仕入れる傾向があるので、慎重な対応が必要である。アメリカ以外の海外ディストリビューターはビジネスの可能性がありうる。
⑨ エージェント
ラインをトータルで扱うアメリカのエージェントが来る可能性もある。日本企業にとっては必要な存在なので、詳しい話を聞くと良いだろう。展示会開催地域にオフィスがあれば展示会後訪問する。
⑩ 同業者
同じカテゴリーに製品を扱う同業者や競争相手がブースに来ることもある。カタログやラインシートなどは渡さないようにする。その意味でも、貴重な資料をブース前面に置いておくことはあまりよくない。バイヤーやメディアであることを確認して資料を提供したほうがいい。資料を無制限に配布して、製品をコピーされたという話は実際いくつもある。
⑪ その他
ファクタリング会社、信用リサーチ会社や、原料販売会社、PR会社、運輸会社などの売り込みも来る。バイヤーがいない時には、話を聞いて情報収集をしておくと良いだろう。
(5) 販売促進
① デモによる販促
展示会ブースにおいて、バイヤーをただ待つというのではなく積極的に販売促進したい。デモを行うのは、むろん日本人スタッフでも良いだろうが、言葉に自信がなければアメリカ人スタッフを雇用することもできる。それは、展示会前2-3ヶ月前くらいからスタッフ派遣会社に、「デモを得意とするスタッフ」と指定して、候補者数名と面接をして実際デモをやってもらい、その中から選べば可能である。デモには、製品を仕入れるかどうかは別としても多くの人が集まってくるだろう。そこで、製品の優秀さ、店頭で売りやすいこと、取引の条件なども説明すれば注文は大きく促進されるだろう。
② サンプル提供
高額製品でなければ、バイヤーに無料サンプルを提供するということも効果的な販促となる。これも、アメリカではよく行われる。ただし、むやみに配るのでは無く、バイヤーであることを確認して提供する。
(6) 展示会初日の終了後
普通は、初日に50%の入場者があると言われているので、初日の商品の反応を捉えるのは意味がある。初日が終わったら、「評判の良かった商品」や「注目されない商品」の傾向を見て、ディスプレイを変えるべきか、商品構成を動かすかという検討を行い、二日目、三日目に備える。日本とアメリカの反応は違うので、「アメリカではこういうものが売れるんだ」という「意外な結果」というのは良くある。初日の反応を分析することはその後の受注成果に大きく影響する。
初日は、展示会会場全体を一通り見て、二日目、三日目に注文をいれるというバイヤーも多い。
(7) 展示会開催中に行うこと
展示会はアメリカのマーケットそのものを表現しているとも言える。展示会期間中、特に最終日は、次の点に配慮して行動すると良いだろう。
① 展示会全体を視察し、アメリカのライフスタイル、マーケットのトレンドを学ぶ。
② 特に、注目すべきブースはダイレクトリーに印をつけて、後日ウェブサイトなどで研究する。
③ ディストリビューターのブースを視察して、商品傾向が合うようであれば話しをする。
④ 競争相手を見つけ研究する。
⑤ 他社のブース・デザイン、ディスプレイ方法を視察する。
⑥ 賑わっているブースの「理由」「背景」を研究する。
⑦ 業界の資料を集める。(無料業界紙など)
⑧ 近くのブースの販売スタッフと話しをしてマーケット情報を得る。
⑨ 人的ネットワーク作りを行う。
⑩ 次回出展に備えて、ブース改善の方針を最終日までに作っておく。
⑪ 展示会主催者担当者と話しをして、次回ブースについての希望を伝える。
展示会にブースを構えていると、多くの人々と出会うことが出来る。特にアメリカに人的ネットワークを作ることを意識すべきである。展示会によってはセミナーやパーティーがある。
(8) 搬出
搬出時はかなり、混乱するので、梱包した商品、身の回りのものには充分な注意が必要。盗難はこの搬出時が多い。搬入する時に、搬出の段取りをきちんと決めておくと、スムースに搬出できる。特に、空き箱の処理、日本に荷物を送る場合の方法などである。それらの方法は、主催者の「出展マニュアル」に記載されているので、あらかじめ計画の中に入れておく。
(9) マーケット視察
展示会後には、アメリカのマーケットを視察するために店舗をまわるべきである。特に、販売の対象になる小売店や展示会中に商談をした小売店には訪問して、具体的なビジネスの話をする。特に、初年度はマーケット自体の理解が不十分なので、小売店視察は重要な課題である。販売対象になる小売店を訪問した時には、視察の最後にバイヤーと会う努力をすると良いだろう。たとえいなくとも、資料を置いて、名前と連絡先(Eメールアドレス)を聞いておけば後日コンタクトできる。
4. 展示会後の営業
展示会後の営業フォローは、受注を増やし、新規取引先確保には重要である。展示会後からアメリカのビジネスが本格的に始まる。
(1) バイヤーとの商談の整理
展示会で書いた「リアクションメモ」とバイヤーの名刺を「見込み客リスト」(Potential Customer List)に整理しておく。それが展示会の一番の成果である。これをきちんと行っておけば、次回の展示会の時に案内状が送れたり、ニュースレターで新製品の案内が体系的に出来る。一回の展示会で、100くらい集めれば、2-3年ですぐに400-500店のネットワークができ、ビジネスは前進していく。
(2) サンキュー・レター
ブースで商談の出来たバイヤーには、サンキューレターをEメールで送ると良いだろう。来てくれたことの感謝、注文締切日、次の営業ステップ、今後の提案などを伝える。宛先を、Dear Customers,でも良いが、出来るだけDear John, というように名前で呼びかけたいものである。製品の写真やブースの写真を添付すると思い出してくれるだろう。展示会終了後、出来るだけ早い時期に行う。
(3) ニュース・レター
「ニュースレター」(News Letter)を発行し、その中で展示会に来てくれたお礼、注文のお礼を述べ、今後の営業展開の内容、製品の説明を伝えるのは効果的である。バイヤーは、商品のニュース、売れ筋のニュース、トレンドのニュースを常に求めている。自社商品の紹介ばかりではなく、様々な情報を載せた「ニュースレター」の発行は店舗との効率的なコミュニケーションになる。近い将来、数百店、千店との取引が行われた場合を想定して、ニュースレター方式を整えておくとよいだろう。内容は、ヒット商品の紹介、デザイナーの紹介、会社の紹介など小売店が関心を持ってくれるような内容を工夫する。よく売れているアメリカの小売店の紹介も喜ばれるだろうし、他の店には参考になるだろう。構成やデザインはブランドイメージを高めるようにする。
(4) メディア対策
展示会では、メディアとの出会いの場でもある。展示会後に商品を貸し出して、雑誌に掲載してもらう。これは、新規店からの問い合わせにつながったり、消費者に商品の宣伝になるという意味では大いに価値がある。きちんとしたプレス・リスト(Press List)を作成して、時折商品情報、営業情報をプレスリリースで送ると良いだろう。この雑誌掲載から火のついたラインがあるのは日本もアメリカも同じである。
(5) 商談の継続
① バイヤーとのコンタクト
展示会で引き合いのあった商談を継続していく。主には、Eメールや電話のやり取りになるだろう。商品のサンプルや資料を送ったり、価格交渉したりしていく中で、注文につなげていく。バイヤーからは中々連絡がないということもあるが、連絡は継続して行うべきである。日本よりも反応は遅いかもしれない。
② エージェント/ディストリビューターとの契約
エージェント、ディストリビューターとは契約内容を交渉していく。契約は一度締結してしまうと、変更するのが難しいので、慎重に行うのは当然だが、アメリカの弁護士を雇用して、契約内容を細かくチェックするべきである。アメリカの弁護士は時間当たりの請求なので、契約書のチェックくらいならば、それほど高額にはならない。弁護士の情報入手は、JETRO NYオフィスで可能である。
アメリカのビジネスの交渉は、言いたいことを堂々と主張するという姿勢が必要。「これを言うと話しが壊れてしまうのでは・・」と、言いたいことを控えてしまうというのでは後で困ったことになりかねない。主張して、それから相手の意見をきちんと聞き最終判断するのがアメリカ流である。双方納得のいく契約締結を行わないと、以降のビジネス展開が難しくなることが良く起きる。