『アメリカから世界のマーケットへ』セミナーの内容

 
 
 

 当社は、すでにまる18年間アメリカ市場に、日本製品を販売してきました。その経験の中から皆様にお役にたてるような情報をお話します。ここにお集まりの皆様は、何らかの契機で海外市場に関心があるのだと思いますが、海外市場進出のメリットは、三つあります。

 一つは、無論「販売テリトリーの拡大」です。これは、当然のことですが、人口減少、世界の企業による日本への進出という中で、日本のマーケットはますます縮小していくのです。ですから、当然日本企業は世界の中にマーケットを作らなくてはなりません。

 二つ目は、「企業進化」です。海外市場という新しい環境に身をおくことにより、日本企業は多くの刺激を受け、自社製品を捉え返し、そして自社を客観的に見るようになります。その結果、グローバル戦略の中で「企業は進化していく」ということです。

 三つ目には、「社内活性化」です。自社のテリトリーが、「世界」になることによって、スタッフの向上心が上昇し、かつさらなる勉強、工夫が必要になり、視野が広がっていきます。それは、結果的に海外市場開拓だけではなく、「日本のビジネス」も押し上げていくことになります。

 このように、海外市場拡大は日本企業に多くのメリットを与えていくのです。それでは、どのように、それを実現していくかということです。

1. 商品戦略

1-1   マーケット・リサーチを行う 「ライフスタイルに合った商品」 

 皆さんの製品を軸にしたマーケット・リサーチを行うことが、アメリカ市場開拓の第一歩です。すでに継続的にビジネスを行っている皆様の中で、「売上げが思うように上がらない」という場合も、マーケット・リサーチの不足が原因と思います。マーケットは刻々と変化して行きますので、もう一度やってみてください。問題点が必ず浮かび上がってきます。私も、アメリカで長く販売してきて、あるラインの売上げが横ばいになってしまったことがありました。マーケット・リサーチをもう一度行ってみると、やはり商品戦略の中に問題点がありました。こういうことは何度も経験しました。海外市場は、日本のように意識しないでも市場の変化を肌で感じられるということが無いので、冷静に論理的にマーケットを分析していくことが必要です。

1-2   アメリカ商品を知る 

 皆さんがアメリカに参入する場合、まず知らなければならないのは、マーケット自体ですが、特に競争相手(コンペチター)と彼らの製品を知ることが大切です。消費者は、店頭で皆さんの商品とコンペチターの商品を比べて買うのですから。アメリカの製品をしっかり理解することは非常に重要なポイントです。マーケットには、毎年新製品が出てくるのですから、これは定期的にやらないと意味がありません。アメリカに来た時、店頭を見て回るというだけでは不十分です。

1-3   デザイン、カラー、サイズの検討 

 「アメリカの製品」を研究して、皆さんの商品の有利性は何か、差別性はどこにあるのかをきちんと整理すべきです。それは、バイヤーへの決定的説得力を持ちます。デザイン、カラー、サイズをアメリカのライフスタイルに近づけていくことと売上げは比例していきます。

 1-4   パッケージ、ラベルの作成 

 消費者は、店頭で買うものを判断する時に、パッケージやラベルで判断するでしょう。センスが良く、分かりやすい、写真の多いものは大変好まれます。

 1-5   価格の研究

 アメリカの消費者は、価格に敏感です。「安いほど売れる」ということではありません。よい品質のものは高いと言うことは十分理解してくれますので、価格に見合った製品の品質とそれを分かりやすく伝えているかどうかと言うことです。

1-6   ブランディングがマーケットを切り開く 

 アメリカ市場は今や、「ブランドの戦い」なのです。ブランドで仕入れると、店頭がきれいになるからです。人気店は、常に店内がとてもきれいです。クレート&バレル、ウィリアムズソノマなどを見ればそれがよく分かります。ブランディングをきちんと行うことによって試行錯誤を避けられます。ブランディングのポイントは、「アメリカの感覚」をいかに取り入れるかです。そのためにも、競争相手の研究は重要なのです。

1-7   商品戦略としてまとめる 

 以上の内容を「商品戦略」として、文章化していき、年々充実させていくことが、売上げを上げていきます。アメリカの購買力は非常に大きいのですが、商品と消費者の歯車がかみ合ったときに、グンと大きく売れていく瞬間があります。その鍵は、みなさんの商品戦略がアメリカの「時代の流れ」と「ライフスタイル」に合った時なのです

2. ビジネスの土台

2-1 現地法人設立か、エージェントとの提携か。

 アメリカの小売店は、大小に関わらず「アメリカ国内取引」を求めます。つまり、仕入れ価格が、国内の卸価格になっていること、国内発送になっていること、国内連絡ができること・・・です。そのための方法は、現地法人を作ることが最も良いのですが、それは、商品戦略が完成し、取引先が充実して売り上げが1億円を超えてからの話と思います。最初から現地法人設立はリスキーです。したがって、皆さんの代理店(エージェント)を確保することが安全ですし、経済的です。信用のおけるビジネス・パートナーを探してみてください。

2-2 受注体制 

 展示会はマーケット・リサーチの場ではありません。「売ること」が大切です。「売る準備」ができていないブースで、バイヤーは真剣に対応してくれないからです。商談は「どの商品もすごく良いですね」と言うお世辞で終わってしまいます。展示会では、多くの小売店バイヤーが皆さんのブースに来ます。100の商談は可能です。ぜひ、その場で注文を取ることのできる準備をしてください。

2-3 回収体制 (クレジット・カード、ファクタリング)

 NOW展では、大手チェーン店もきますが専門店が多いのが特徴です。クレジットカードで支払うバイヤーが多いのです。アメリカには、「ファクタリング」という売り掛け金額を保証してくれるサービスがあるのです。両方とも、アメリカ法人であるエージェントの存在が必要です。エージェントがいれば、回収はシステム的に行なわれますので、集金できないという事態はまず起こりません。

2-4 流通体制 (ウェアハウス、EDIシステム)

 アメリカ国内には、日系、米系のウェアハウス企業があります。そこから、アメリカの小売店に商品を発送することが一番良い体制です。小さい小売店から大手チェーン店まで対応してくれます。店舗までは、ウェアハウス企業からUPS社のトラックで納品されます。
 大手チェーン店やデパートはEDIシステムによる取引が求められます。EDIのセットアップは、EDIエージェントが存在しますので、依頼することができます。しかし、それは前もって準備する必要はなく、商談が煮詰まってからでも間に合います。「EDIができますか?」と、聞かれたら、YESと言って、商談がまとまりそうになった時点でEDIエージェントと相談すれば良いでしょう。

3. 販売戦略

3-1 販売対象

 皆さんの販売対象は、主に専門店、オンラインストア、大手小売企業になるでしょう。

専門店・・・展示会の中で注文する店が多い。国内取引の準備ができていれば大丈夫です。

オンラインストア・・・高画質の写真と下記のスプレッドシートの準備で取引が可能ですが、在庫がアメリカ国内に必要です。Drop Shipが可能であれば、より多くのオンラインストアと取引できます。(Drop Ship=オンラインストアが注文をとり、サプライヤーが消費者に出荷する)

大手小売企業・・・展示会では、商品を見せて、資料を渡すだけになります。展示会後に、本社へ行き、プレゼンテーションを行うという段取りです。取引の規模が大きくなるので、失敗は許されませんから充分慎重に行うべきです。難しいことは余りありませんが、シッピング・ガイドが非常に分厚い量で、最初は戸惑いますが、何とかこなしていけば、どのチェーン店でも似たような内容ですから大丈夫です。ただ、商品の動きが思ったよりも良く、頻繁に欠品してしまうと、「あてにならない」と切られてしまうことはありえますので、適性在庫、生産管理をきめ細かく行うことが重要になります。

3-2 3ヵ年販売計画

 3年くらいの長期的な計画を立てると良いでしょう。初年度からいきなり大きな売上げと言うことはありません。むしろ、いきなり大きくなるよりも」「ビジネスの土台」「商品戦略」が充実すると平行して伸びていく方がマーケットにブランドが定着します。例えば、次のような流れで行くと、無理なく進んでいくと思います。

初年度・・・100店の取引先確保、専門店。オンラインストアがよいでしょう。

2年目・・・200店の取引先確保、専門店。オンラインストア+1社の中小チェーン店がよいでしょう。

3年目・・・300店の取引先、専門店。オンラインストア+数社の中小チェーン店+1社の大手チェーン店がよいでしょう。

3年かけて、ビジネスの土台が形成され、マーケットに合った商品戦略が出来れば、売上げは順調に上がっていきます。「ビジネスの土台形成」が、何よりも重要です。

3-3 展示会計画・・・USシカゴIHHS、Euroアンビエンテ

 NOW展で完成した「商品体制」、「営業ツール」は「世界の市場」にも充分通用します。アメリカで体制が整ったら、ヨーロッパの展示会に出ると効率的です。つまり、アメリカで売れるものは、世界中で売れていきます。英語の営業ツール、パッケージは世界的に通用します。

4 営業ツールの準備

 商品のほかに次の営業ツールが必要になります。

4-1 ラインシート

 バイヤーが商品に関心を持ってくれたときの第一声は「ラインシートありますか?」です。バイヤーとのコミュニケーションの軸になります。

4-2 スプレッド・シート

 商品データーをすべて、エクセルシートにまとめておきます。かなり長いシートになります。品番、色、サイズ、重さ、ケース入り数、JANコード、ケースのサイズ、ケースの重さ、素材、原産地などです。

4-3 フライヤー 

 商品情報のはいった簡単なチラシです。ポイントは、あまり字が多くなく、分かりやすいこと、写真で表現すること・・です。会社情報は基本的なことだけで充分です。

4-4 カタログ

 1-2年では、まだ商品が固まってきませんから豪華なカタログはいりません。特にデザイン系製品は毎年変わるので作る必要はないでしょう。Webサイトを商品カタログにするほうが有益です。

4-5 Webサイト/ Webカタログ/ SNS

 SNSは、非常に重要な営業ツールになってきました。バイヤーも、消費者もスマートフォン片手に買う時代です。フェースブック、インスタグラム、ピンタレストなどが人気です。写真の良いものが説得力があります。

4-6 製品写真

 オンラインストアとの取引には、製品写真は欠かせません。高画質の写真を最初からそろえておくべきです。

4-7 ライフスタイル写真 (重要!)

 製品だけの写真も必要ですが、イメージ写真、ライフスタイルの中でも写真も重要な販促ツールです。ただし、「グローバルマーケットに合った写真」を撮る事はそう簡単ではないのです。ここが問題です。この課題は時間をかけていくべきで、一気に解決は出来ません。私のビジネスでも、一番苦労するところです。日本で撮影した写真はやはり、日本的で使えない場合が多いのです。ゆくゆくは海外で撮影することをお勧めします。

4-8 受注書 (PO)

 専門店は、展示会の中で注文しますので、「POを書いてください」と言われたら、それは注文すると言うことです。契約条項の入ったPOがベストですが、初期段階では、既成のPOに会社名のシールを貼って使っても、大丈夫です。

4-9 リアクション・メモ 

 商談があったときは、かならず「リアクション・メモ」に詳細を書いておくべきです。どんな話をしたのか、どんな人だったか、何か問題があったか、どの商品に関心を持ったかなどです。初回出展社は、今回のNOW展で、何とか100枚書ければ良いと思います。その数は、商品の市場性と比例します。 

5  展示会出展

 いよいよ展示会に出展する段階になりましたら、次の準備が必要になります。

5-1 ブースデザイン

 バイヤーは、ブースの雰囲気で、ブースに入ってきます。ブースからの「感性の発信」に引き付けられるのです。したがって、ブースデザインは非常に重要と言えます。ブースの何かしらのインパクトがあり、センス良くまとめられている、分かりやすい・・ことがポイントです。「悪い例」は、字が多い、ポスターベタベタ、分かりにくい、スタッフが半天・・・などです。日本的にすると目立つという考えもありますが、バイヤーとの距離を大きくするだけです。

5-2 ブース・スタッフ 

 バイヤーが女性が多いことから、ブースに立つスタッフも女性中心の方がバイヤーは入りやすいでしょう。スタッフ同志のチームプレイもしっかり準備しておくべきです。「悪い例」は、バイヤーを2-3人で囲んであちこちから言葉が出る状況です。アメリカでは、一対一の商談がマナーです。バイヤーからの質問は、10程度の内容ですから、充分覚えられる量です。英語力で売れるのではなく、商品とブランディングの力で売れるのです。

5-3 サンプルの準備 

 サンプルがやたら多いと、「良いデザイン」が埋もれてしまいます。「これを扱ってもらいたい」というものに、絞る方が「分かりやすい商品構成」になります。バイヤーの目に留まりやすいのです。特に新規開拓が主な目標の場合は、商品は絞って提案と言うことをお勧めします。

5-4 アメリカ人販売スタッフ 

 アメリカ人販売スタッフは有効です。展示会のときだけ雇用するにはスタフィングのエージェントがいますので、容易です。彼らにに、シンプルに書かれた製品情報を準備しましょう。その製品情報を覚えてもらい表現してもらうことは、展示会の活気を生みます。ポイントは、展示会前日の練習です。繰り返し、練習することによって、商品情報を覚えてもらうのです。

5-5 商談の流れ

 多くのバイヤーは、「どの商品が一番売れるの?」と聞いてきます。ベスト5くらいはあらかじめ準備して、スタッフが覚えておきましょう。また、商談の流れも決めておくと良いのです。たとえば、簡単な会社説明、ブランドの特徴、売れ筋商品の説明、流通の説明と言うように。

5-6 デモは強い

 製品の使い方を見せる「デモ」にはバイヤーが集まります。非常に強い販促方法です。

 アメリカ市場開拓は世界でも最もビジネスのシステムが整っているマーケットです。このマーケットでビジネス体制、戦略をしっかり整えて、アメリカビジネスに成功すれば、世界のマーケットへ進んでいけます。「アメリカから世界市場へ」ビジネスのエリアを大きく広げていってください。